息子はトイレで何をしているのか?
「パパ、ドアしめて!」と言って、息子はガチャリと鍵を閉めた。
トイレの前に取り残された僕は「大丈夫?」と声をかけたが、返事は無かった。
4歳になる息子のおむつが取れたのは、昨年の夏のことだった。
当時、保育園に行っておむつの準備などをしているところ、あるリストを見かけた。
そこにはクラス全員の名前があり、○、×という形でトイレトレーニングが終了したことを示すサインが書かれていた。
うちの息子は×。そして、リストを指で追ってみると、うちの子ともう一人だけ、まだオムツの子がいたが、それ以外の全員はすでにパンツに移行していた。
これはまずい、と急いでトレーニングを始め、トイレに「ちゃんとできたシート」を貼って、自分でトイレが出来たらシールを貼るようにしたり、「おしっこ大丈夫?」など声をかけてあげることで、だいぶ一人でいけるようになってきたのだ。
その結果、最近は一人でいつの間にかトイレに行き、大も小もできるようになっていた。
とはいえ、外で「大」に一人で入るのは無理のようで、いつも付き添っていた。
目の前で力む息子。上手に拭けたか確認する息子。そして、一緒に確認をして流す息子。時には上手く出なくて、手をつないで用を足してたこともある。まるで出産に立ち会った時のようだった。
人がトイレをしている様子を見るなんて、決して楽しいことではないが、我が子なら、すべてがかわいいと思えた。
そして、その日もいつものように「トイレに行きたい」というので、コンビニに行き、一緒に入ろうとしたところ、いきなり追い出されたのだ。
僕は扉の外でずっと待っていた。
よく考えたら、息子がトイレに限らず、個室に入って中の様子が分からない、なんてことは初めてだ。
なんでこんなに時間がかかるのだろう。大丈夫だろうか。
そういえば、前の会社の社員でやたらトイレットペーパーをいっぱい使うやつがいた。そいつは1回で1ロールの半分ぐらい使うので、トイレを詰まらせたことがあった。そういうのも、親の教育次第だと思う。この密室の中で息子は上手にできているのだろうか。
心配なまま時間は過ぎる。特に音はしない。静かだ。やがて水が流れる音がすると息子は出てきた。
「ちゃんと拭けた?」と聞くと、「うん、大丈夫だよ」と答えて、ズボンを下げておしりをこちらに向けた。こういう無防備なところは前と変らないみたいだ。
それから手を洗って、二人で手をつないで車に戻った。
少しずつ、確実に息子が成長している。
ついこないだまで一緒にトイレに入っていたのに、唐突にそれは断ち切られた。
きっとこれからも、昨日まで仲良くお風呂に入っていたのに、嫌だ、と言われたり、一緒に寝るのを嫌がられたりするんだろう。
ちゃんと大切なことは伝えられているのか。
日々そう考えながら子どもに接しなくちゃならない。
急にドアをガチャリと閉められる前に。