親が涙するおすすめの絵本「おおきな木」村上春樹訳
ごんぎつねのことを思い出すと、心が痛む。
いっぱい絵本は読んだのに、心に残る作品には少しの理不尽さと憤り、そして死がある。
それは戦時中のゾウの処分を描いた作品「かわいそうなぞう」でも同じである。
物語はいつだって、すっきり爽快だけではない。
勧善懲悪やハッピーエンドは気持ちは良いけど、その瞬間、通り過ぎるだけで何も残らない。
実は文章も一緒で、本当に上手い人はわざと「悪文を混ぜる」という。
そうすると、いままですんなり読めていた文章が、「ん?どういうこと」となってテンポを落とす箇所が出てくる。
そうすることで何かが残る文章になるのだという。
ちなみに僕はそんなテクが無いから、まずはスッとスッと読めるものを心がけている。
村上春樹訳の「大きな木」は良い物語なのか?
いま絵本業界で話題になっている本に「おおきな木」という作品がある。
なにが話題なのか、それは「これは良い話なのか、ひどい話なのか」という論争が日本で起きているからである。
この作品は、1964年にアメリカのシンガーソングライターであり、作家でもある、シェル・シルヴァンスタインによって描かれ、日本でも1976年に出版されている。
本田錦一郎さんによって翻訳された同作品は多くの人に愛されていたが、 出版元が発行を続けることが困難になった。
そこで出版社を変えて村上春樹が新たに翻訳を行い、2010年に改めて発行されたのだ。
いつも木と話す少年。枝にブランコを付けて、ずっと仲良しだったが、やがて少年は女の子に夢中になり、木とは遊んでくれなくなる。
それでも木は少年を待ち続けていた。
久しぶりに少年が来たと思ったら、お金が必要だ、家を建てる木が必要だ、と言いだす。
そのたびにリンゴの木は実をあげたり、木を切ってあげたりする。
さらに「遠くに行きたい」と言いだした時には、自分を切って船にしてあげている。
しまいには切り株だけになったリンゴの木。そこにやってきたのは、年老いた少年だった。
「疲れた」という少年に「私に座りなさい」とリンゴの木は声をかける。 切り株に腰かけた姿を見て、果たしてリンゴの木は幸せだったのか・・・。
まさに親と子の関係のようだ。与え続ける親、受け取り続ける息子。
最後の最後に村上春樹が投げかけた言葉がいつまでも心に残る。
そして、ここだけが前の人の翻訳と明確に違うところだという。
子ども向けだけど親に読んで欲しい一冊
僕はこの本を読んでいて、後半泣きそうになってしまった。
木と自分を重ねたからだと思う。子どもが生まれた時「自分より大切な存在がいる」と初めて知った。
本を読んでいるとその時の気持ちが蘇ったのだ。
その一方で、無条件に甘え続ける少年にもイライラした。でも、理不尽だからこそ、心に残る作品だといえる。
この本が売れている理由は、きっと親がぐっと来る作品だからだと思う。
手元に持っていて何度も読み返したい一冊だ。