世界はまだ油断してるから

4歳と1歳半の男の子ふたりの子育てを父親目線で紹介します

父親がお酒を飲む理由を知った日

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photo by Lotus Carroll

 

父親はかなり酒を飲む。飲むと家族に絡もうとする。

 
まだ僕も妹もみんなで実家に住んでいた頃、酒を飲んだ父は上機嫌で妹の部屋に入っていき、「来ないで!」と怒られていた。その後、僕の部屋に来るので、「来るな!」と追いだしていた。
 
子どもたちに追いやられた父は、仕方なくテレビを見ながら一人で酒を飲んでいた。寝る時もお酒を飲みながら寝る。そうすると、寝床にコップがあって、それが余っていて「また余らせて!」と母親に怒られたり、時にはコップを倒して布団がお酒臭くなったりして、怒られたりしていた。
 
当時は僕も妹も未成年であり、母親はあまりお酒を飲まなかったので、家では酔っ払いが一人だけいる状態だった。楽しそうに飲んでいたが、周りは迷惑しており、そのせいで本人は肩身が狭かったと思う。
 
ある日、酔っ払って廊下で寝ている父親を連れて、布団に寝かせたことがあった。
 
あまりの重さにいらいらして、「なんで毎日酒を飲むんだよ」と言った。
 
すると父親は「もうな、仕事に飽きたんだ。でも、やらなくちゃいけないから、夜になると色々考えちゃうから飲むんだ」と言っていた。
 
その時は、父親なのに何言ってんだ、働くのは当たり前じゃん、と思っていた。
 
そして月日が過ぎた。いま僕にも二人の子どもがいる。子どもが欲しいとは思っていたが、子どもを育て上げる、というプレッシャーは相当なものだ。もう気まぐれに生きるなんてできないのだ。背中だか両肩には家族がずっしりと乗っているのだ。仕事に飽きた、なんて言葉は口にできない。
 
父親は料理人だ。かれこれ40年やっている。同じ店に行って、同じ食材を調理し続けるというのは、かなり飽きる。僕も20代の頃に喫茶店のバイトをやったことがあるが、「コーヒーを極める!」なんて思っていても、すぐに飽きてしまう。1年で飽きてしまった。僕にはとても、とても40年も同じものを焼き続けることはできない。
 
父親も僕と同じで飽きっぽい性格のはずだ。この言葉を言った当時、父親は30代後半だった。今の僕と同じ年だ。現在の仕事を気に入っている反面、「あ~カフェをやりたい」とか「古本屋になりたい」とか、他に何かできるのでは、と思ったりする。これが40代後半とかになると、「俺にはこれしかないんだ」となるんだけど、残念ながらまだその域には達していない。そんな時期だ。
 
ああ、父さん。父さんはきっと毎日クタクタだったんだ。30代後半になると立ち仕事はつらい。やることにも飽きてくる。じゃあ、なんで続けていたかというと、家族のためだったんだ、僕らのために続けていたんだ。
 
最近になって、一人でお酒を飲んでいる時に、ふとその父親の言葉を思い出して、涙が出てしまった。そのやり取り自体、ずっと忘れていたのに、今になってようやく、あの時の父親の気持ちが分かった気がした。
 
お父さん、僕らを育ててくれてありがとう。家を買ってくれて、部屋を与えてくれてありがとう。今なら家を買うということがどんなリスクで、家族のためにそれを手に入れたことがどれだけ誇らしかったか理解できる。自分ががんばって買った家なのに、部屋に入るな、とか言ってごめんなさい。ふいにそんな気持ちになった。
 
父親は60歳を超えた今も焼き場に立ち続けている。今度会うのは年末だ。あの頃のせいで、いまだに家族から邪魔もの扱いを受けている父親に、この年末は少し優しくしてあげようと思う。
 
お父さん、ありがとう。